▶ 森田療法

森田療法とは

  森田療法は、森田正馬によって1921年頃に作られたそうで、神経症の治療に効果的といわれています。 お分かりのように、森田療法は日本人によって作られた療法であり、西欧の心理療法と考え方が異なります。西欧の心理療法では、その人の心や考え方を分析し、ゆがんだ部分を見つけ出し、そこを修正すること目的に治療を行います。しかし、森田療法は西欧の心理療法とは対をなし、人間の二面性を認め、その人の心や考え方のゆがみを受け入れた上で、治療を行います。イメージ的には悪いところを直接治療する西洋医学と、体を健康にすることで悪いところを無くす東洋医学の違いに似ています。

 

「とらわれ」による「はからい」

 森田療法の基本として、「とらわれ」、「はからい」、「あるがまま」、「目的本位」の4つが挙げられます。ここではまず、「とらわれ」と「はからい」について、簡単に説明したいと思います。「とらわれ」とは、ある物事に心が捕らわれることを指しており、「はからい」は捕らわれたことによる行動や処置を指します。神経症の方を例に考えると、手の汚れを気にするあまり、1時間おきに手を洗わないと気が済まない、といった具合です。この例では、「手の汚れ」に心が捕らわれていることが分かります。そして、心が捕らわれているために、「手を洗う」というはからい行動が引き起こされています。このような「とらわれ」と「はからい」により日常生活に支障を来たすため、これらをどうにかして解決する必要があり、森田療法では「あるがまま」から「目的本位」へと導くことで問題を解決できるとしています。

 

「あるがまま」から「目的本位」へ

 先ほど、「とらわれ」と「はからい」について説明しましたが、ここでは「あるがまま」と「目的本位」について説明します。「あるがまま」とはそのままの状態のことを指します。先ほどの神経症の例を出すと、心が捕らわれているという状況は変えなくてもよいということです。問題なのは「とらわれ」によって引き起こされる「はからい」の方で、はからい行動があるために、日常生活が送れなくなってしまいます。ここで、「目的本位」の考え方が必要となってきます。「目的本位」とは、本来の目的を達成するための行動を選択するという意味です。森田療法では人間の二面性を認めているため、「手が汚いからずっと手を洗っていたい」という気持ちと、「無意味な手洗いをやめて日常生活を送りたい」という気持ちが同居することを認めています。大事なのは本来の目的を達成する(目的本位)ために、どの行動を選択するかということです。その人の人生の目的は当然手を洗うことではなく、そんなことで日常生活が送れなくなるということがあってはなりません。したがって、日常生活を送るという「目的本位」の行動、手を無意味に洗わないという行動を選択することがポイントになります。

 

前向きな生き方

 森田療法は神経症の治療に有効とされていますが、一般の方にも有効だと私は思っています。というのも、森田療法であるように、人間は二面性があり、前向きな考え方と後向きな考え方が同居していて、この二つの考え方で常に揺れ動くものだと思うからです。ダイエット中の女性をイメージしてもらえると分かりやすいと思います。痩せたいけど、食べたいといった二面性が同居し、常にその間で気持ちが揺らぎます。このような二面性が生じる場面は日常生活において大変多く、森田療法の「目的本位」という考え方を有効に利用できる場面は少なくないと考えられます。そして、「目的本位」の選択をすることで、前向きな生き方にすることができると思います。